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「イヤイヤ」行動は悪循環を生む
定年退職し、やっと夫婦水いらずの時間が持て、若いころやっていた山歩きを夫婦ではじめたいと思っているご亭主は少なくないでしょう。しかし、仕事人間で、家事や子どもの教育などを奥さんに任せっぱなしにし、家庭を振り返ることのなかった亭主に対して奥さんは、それほど寛大ではありません。「行きたきゃ、勝手に一人で行けば」と一蹴されるかもしれません。そういう状況にある人は、日常生活から「ゆる」に改善し、山歩きの計画を持ち出すのは、それからかもしれません。
「うちのヤドロクは、ちっとも家のこと手伝ってくれないんだから…」と、よく奥さんがぼやいていますよね。ですから、亭主は、手始めに家事の手伝いからはじめたらどうでしょう。ただし、嫌々やるのは禁物です。逆効果になりますからね。
たとえば亭主が「おい、トイレ、ちょっと臭せーぞ」っていう。すると、奥さんはカチンとくる。「臭いのって、誰のせいだと思ってんのよ。あんたのせいでしょ。年取ってコントロール悪くなって、オシッコ床にこぼしてんじゃない。だったら、あんたが掃除すればいいじゃない」とやられる。だから、お互いに言ったら言ったで、どんどんジリ貧になってしまう。言わなきや言わないで、奥さんはどんどんストレスが溜まっていく。
そんなことが続けば「こんな亭主と山に行くなんてまっぴら」、挙句には「こんな亭主とは別れたい」なんてことになってしまうかもしれません。これって、ホメオスタシスのジリ貧状態です。
家事でも何でも嫌々やっている、嫌なことだと思っているから、やってもおざなりになる。だから、どんどんホメオスタシスは下がる。たとえば奥さんにトイレのことで責められたから、嫌々ながら掃除する。
ところがやってみると、とくに西洋式のトイレは、奥のほうまで手を伸ばして雑巾がけするって結構大変です。実は、あの身体使いは、とても身体をゆるませるひとつの体操なのです。アスレチッククラブに通ってできる運動ではありません。トイレ掃除は、とてもいい運動なのです。
だけど、嫌々やっていると、それに気がつかない。せっかく、身体の代謝を高め、難しい動きをさせて、小脳を動かすチャンスなのに、その機会を失ってしまっているんですよ。その結果、生理・生化学的にもホメオスタシスは下がるし、嫌々だから心理的なホメオスタシスも下がるんです。
そんな夫婦生活をやっていると、マイナスのスパイラル、悪循環に陥ってしまって、夫婦仲はどんどん悪くなってしまう。ですから、奥さんに「ちょっとトイレ掃除やってよ」といわれたら、喜んで二つ返事でやりましょう。身体をゆるめる運動だと思ったら、苦にはならないはずです。日々、家事で身体を動かすうちに、心理的なホメオスタシスも上がってきます。
最初、あなたの態度の変化を奥さんは気味悪がるかもしれません。しかし、そのうち奥さんの態度も柔らかく変化するはず。お互いのホメオスタシスが相乗的に上がってくる。そのときが山歩きの計画を切り出すチャンスです。
山は、疲れた脳や身体を癒してくれる
日常生活で、ジリ貧になっていくホメオスタシスを好転させるのに、ゆるトレッキングはいいチャンスなのです。ゆるトレッキングは、自分の日常的な意識、生き方をもう一回、前向きなものに変えることができるよい機会なのです。
トレッキングをすると、年を取った自分の衰えた身体や脳に、否が応でも直面しなければならない。山では、身体的につらい目にもあうし、自信をなくしたり、ヘタしたらケガをしたりするかもしれません。体力的、精神的な自分の”落ち目”に気がつかされる。それは「さあ、山に行くぞ、楽しいぞ」という前向きな気持ちに対してぶつかってくる現実です。身体という物体と山という物体のぶつかり合いから生まれてくる必然です。思いなんて関係ない。
これは、モチベーションとしては、一番、明確なのです。そのぶつかり合いから暴かれた自分を「何とかしたい」というために、「ゆる」の考え方があるのです。
しかし、トレッキングに出かける前に「山でぶつかるつらさより、もっとつらいことを日常生活の中でトレーニングしないといけないの?」となると、ほとんどの人がやりたがらない。単純な筋力トレーニングとか、毎日、これだけ歩きましょうとかいう話になってしまうと、固まったままの身体でやるのは危険も伴いますし、またやった方がよいと思っても、結局はやらない現実がある。
だけど、本当に人間の生体の機能を克明に研究してみると、ゆる体操のような楽なことで、人間の身体っていくらでもよくなるんですね。
ぜひマイナスのスパイラル、ジリ貧型のホメオスタシスを変えて欲しいですよね。それ(ゆる体操)をやっていくと、信じられないくらい、変わります。根こそぎ変わります。みなさん「若いときより快適だわ」という自分に出会うことができます。若返るっていうけど、自分の若いときを振り返ると、案外、暗かったりする。20代、30代を振り返って、バラ色の心と、バラ色の身体を持っている人なんか、それほどいないんですよ。だから、そういう冷静さに立って考えると、若い頃より輝く自分を発見することだってできるわけです。
こうして元気な自分を手に入れたら、筋トレだってウォーキングだって、安全かつ快適にやれるようになってくる。ゆる体操をペースに筋トレ(ゆる筋トレ)やウォーキング(ゆるウォーク)ができるようになったら、それこそ素晴らしいことです。
つまりゆるトレッキングは、単に山を楽しむだけじゃない、日常生活を含めて、人生の質そのものを極上にするためのメソッドなのです。
さああなたも、ゆるトレッキングで、ゆるっと山へ向かってみませんか。
老いるとは、体が固まり、縮むこと
歳をとって老人になるのは、まさにこの世の天国、こんなにありがたいことはないと私は思っています。なぜならば、ありあまるほどの自由時間を手に入れ、最高の健康と能力を実現するチャンスが得られるからです。
しかし実際には、歳をとるにつれて、体のあちこちにコリがたまり、固くなって、動きが鈍くなり、しなやかさを失っていきます。歩き方や日常の動作が年寄りくさくなり、もの忘れや無気力が進んだり、さまざまな体調不良、病気やケガも出てきます。
生後1~2年の若い犬をイメージしてみてください。まるで魚が空中を泳いだり飛び跳ねたりしているような動きをしています。背骨も肋骨もグニャグニャで、四本の脚も非常にしなやかです。
次に、10歳を過ぎた老犬をイメージします。犬の10歳過ぎは人間でいえばすでに高齢期にあたりますが、見るからにギクシャク、ポキポキとしていて、まるで直方体の箱に四本の棒っ切れを差し込んだようです。その老犬も子犬の頃には全身ゆるゆるだったはずなのに、今では体中が凝り固まっているのです。
ゆる体操で、気持ちよくゆるゆるに
歳をとって衰えるとは、体のあちこちが固まって縮んでいくことである。運動科学の専門家として人間の心身の可能性を追究してきた私は、現在ではそのように考えています。
しかも体のあちこちが固くなり、動きが悪くなっていくプロセスはきわめてゆるやかに進むので、たいていの人は、自分の体がいつの間にか衰えていることになかなか気づきません。またそれにつれて、人間の体と脳は密接に関係しているために、脳機能も衰えていきます。体と脳がセットで不活発になっていく。それが「老化」の中味なのです。
ですから、体のあちこちにたまったコリをやわらげて、だんだん筋肉や関節が動きにくくなっていくのを食い止めれば、歳をとっても、いつまでも若々しい心身を持ち続けることができるのです。
元気なお年寄りは、体がゆるんでいる
70歳を過ぎても80代になっても、さまざまな分野で活躍している人たちがいます。そんな「元気なお年寄り」と私は何人も出会ってきましたが、そういった人たちに共通しているのは、体の使い方がうまく、身のこなしが軽いことです。歳をとっても体が固まらずに、ゆるんでいるのです。
歳をとるのは誰にも避けられないことですが、歳をとるほど体が固くなるのは当たり前のことではありません。大事なのは70歳、80歳という年齢ではなく、何歳になっても体を固まらせずにゆるめること。それを実現するのが「ゆる体操」です。
ゆる体操は、高齢者でも、いつでも、どこでも取り組めるように、ラクで安全であることが徹底的に考え抜かれています。それでいて、ダラーッとしたラクな動作を続けていくだけで、老化によって衰えた心身のさまざまな機能がいつの間にか自然に改善に向かっていくようにできている体操です。寝たまま、座ったままでもできますし、一人で、夫婦二人で、施設のレクリエーションとして大勢で、簡単に始められます。
やればやるほど、気持ちよくゆるゆるになり、体が元気を取り戻し、それにあわせて脳の働きも活発になります。とにかくまず、最初に紹介する3種類の「寝ゆる」体操をやってみてください。体がゆるゆるになっていく気持ちよさを実感できるでしょう。
体に、プラスの変化が続々と起きて
たとえば、「ひざコゾコゾ体操」を、ラク~な気持ちで1~2分やると、ふくらはぎのコリやこわばりがほぐれて、なんともいえない気持ちよさを感じます。自分のふくらはぎを自分のひざにのせて動かすので、コリや痛いところを探すのも自由自在。そのうえ、寝転がった姿勢でやる体操ですから、ラクチンそのものです。
体操を続けると、快適に、しかも軽やかにスピーディに歩けるようになるので、いつでもどこでも気軽に歩いて出かけ、知り合いやご近所の方々と会ったり話したりする機会も増えます。家の中でも、起きてすぐにカーテンを開けたり、テーブルの上を片付けたり、部屋を掃除したり、今まで面倒でつい後回しにしていたこともいつの間にかやるようになります。
そんなふうに、身の回りのいろいろなところで、次々とプラスの変化が起きてきます。つまり、「ひざコゾコゾ体操」をやることによって、心身がそういった「良循環」の方向に巡り始める、いわばスイッチが入るわけです。そして実は、すべての種類のゆる体操は、心身がそのように良循環に向かうスイッチを入れるように設計されています。
「寝たきり」にならないために
歳をとって体のあちこちがこわばり、コリがたまり、痛かったりつらかったりするところが増えると、何をするのもおっくうになってきます。身の回りのことも、趣味やスポーツでも、やらずにすむことはできるだけやらないで、いつもダラダラと過ごす。そうなってくるともう、毎日数歩ずつ寝たきりへと向かい続けているようなものです。脳の働きもぽやけていくでしょう。
ゆる体操を続けていると、「あれ?」と思うような変化がたくさん起きてきます。ものがクッキリ見える。もう何年も前から感じていた、額の辺りに幕がかかったような重苦しいイヤな感じがスッキリ晴れた。朝起きて鏡を見たら、なんだか表情がにこやかだ。脳みそがシャンとしたような気分で、新しい考えや前向きな気持ちが湧いてくる。
輝く老人パワーを!
そうすると、もっといろいろなゆる体操をやってみたくなり、さまざまな機能改善が相乗効果で進み、脳もどんどん活性化していきます。気がついてみると、若いときよりも体調がいいくらい。額や目もとには人生の年輪であるシワが刻まれているけれど、肌はツヤツヤ。そうなると、実に味わい深い、いい顔になってきます。地域でゆる体操に取り組んで、そんなふうに輝くように元気いっぱいになったお年寄りを、私自身、大勢見てきました。
たっぷりと時間を使って、ダラーッとしたラクな気持ちで、ゆる体操を続けていけば、多彩な心身の機能改善が次々と起きてきます。科学的な設計に裏打ちされたゆる体操によって、信じられないくらい、気分爽快、体調抜群、そんなコンディションが実現できます。――老人の心身にこそ、無限の可能性と希望があるのです。なぜなら、老人には現役世代が持つことのできない、厖大ともいえるたくさんの自由な時間があるからです。
厖大な自由時間を有効に便う
しかし、厖大な自由時間があっても、若い人にしかできないようなキツイ方法しかなかったら、高齢者は結局その自由時間を使うことはできません。自由時間は無為にして持て余すだけの時間になりかねません。
ゆる体操はこの問題を解決したと言えるでしょう。ゆる体操が設計し、体系づけた方法の多くが、老人の心身によって十分にラクで楽しく実施できて、なおかつ、十分な健康化と高能力化の効果が得られることが、数多くの実践を通じてわかってきたからです。
老人こそ達人になれる
厖大な自由時間とゆる体操の出会いは、「若者ではなく、老人こそ達人になれるチャンスの到来」と読み換えることができます。
一日に30分以内のゆる体操から始め、健康度と能力の改善度や向上に応じて、徐々に徐々に、次第に時間と内容をふやしていきます。そして、やがては一日に3時間以上の“ゆる体操三昧”も夢ではありません。あなたの年齢がいくつであっても、一日に数時間のゆる体操を続ければ、若いときにも勝る颯爽とした心境と快適な身体能力をもたらしてくれることでしょう。
その時あなたは、老人にしか果たすことのできない「達人」になっていることでしょう。
最後になりましたが、本書ができるにあたっては多くの方々のお力添えをいただきました。ここに深甚なる感謝の気持ちをこめて、筆をおかせていただきます。
身体をゆすってゆるめること、もしくはそのための方法を「ゆる」と言い、「ゆる」を柱にさらに徹底的に身体をゆるめるために武術、ヨガ、気功、呼吸法の奥義に「モゾモゾ」「クネクネ」などの擬態語、そして駄洒落をも取り入れた体操を「ゆる体操」と言います。
この、一見風変わりな「ゆる」というアイディアの着想は、半世紀も前に父親から伝授された武術深奥の秘技と、40年前に見たプロボクサーのモハメド・アリやゴルフのアーノルド・パーマー、ジャック・ニクラウスら、天才スポーツ選手の身体の使い方にありました。
以来、試行錯誤と研究を重ね、スポーツ、武術、芸術などの能力アップのための専門的方法として、普及につとめるようになったのが、1990年代のことでした。
しかし正直なところ、90年代の「ゆる」に対する評価は毀誉褒既相半ばしていました。バスケットボールのスーパースター、陸川章選手や三宅学選手をはじめとした競技スポーツ選手の成功に寄与し、太極拳などのウォームアップや基礎トレーニング法として選手層を中心に普及する反面で、「動きが気味悪い」「『ゆる』という名前がたるんでいるようで好きになれない」など、マスコミから一般の方まで、否定的見解も相次ぎました。
こうした社会の好不評の波にもまれながら、筆者はある一つの信念をもって、次の三つのテーマについての研究に、心血を注ぎました。
一つの信念とは、21世紀日本社会を支える基盤(インフラ)たりうる「力」をもった体操法をつくらなければならない、というものであり、三つのテーマとは、
です。そして、この90年代から現在にいたる研究により、多くの事実が明らかになってきました。
ただ身体をゆるめるようにゆするだけで、脳の酸化ヘモグロビンが顕著に増え、自律神経が副交感神経優位へと大幅に変化する実験結果は、衝撃的ですらありました。なぜなら、最近の心理学が人の最高の能力を発揮するための前提として明らかにした、コンセントレーションとリラクセーションの同時達成が、「ゆる」によっていとも容易かつ確実に実現できてしまうことの、それが科学的実証であったからです。
横着にダラーッと寝たまま行う簡単で気持ちいいだけの「ゆる体操」(寝ゆる-本文93ページ参照)で、歩きの最低歩高が高まる実験結果も、衝撃的でした。人の歩行運動では浮き足が軸足の近くを通るときに、足と地面の距離がもっとも近くなる最低歩高を描くのですが、この最低歩高が五分間の「寝ゆる」の後で、36パーセント(実測値では4.7ミリ)も高くなったのです。
最低歩高は主に腰椎と大腿骨をつなぐ大腰筋の出力に支配されていますが、大腰筋自体の筋量が増えていない状態でその出力が高まった事実は、脳の大腰筋支配領域の活動性の明らかな増大を示しています。
これがなぜ衝撃的かというと、脳の大腰筋支配領域の活動性の増大が、高齢者なら転倒予防、競技スポーツ選手なら競技力向上、そして若い女性ならカッコいいプロポーションと颯爽とした歩きの実現という、三者三様の目的のすべてにかなうからです。第一章に書きましたが、全国ベスト16止まりだったさいはての弱小女子バスケットボール部が「ゆる体操」だけで、大学日本一になった出来事は、もはや衝撃という概念を超えているように思います。有力大学に比べ平均身長で10センチ低く、全国レベルでは二流の選手たちが、ウェイトトレーニングをまったくやらずに、全練習時間の完全に半分を「ゆる体操」にあてた結果、2005年4月、大学日本一になったのです。
ウェイトトレーニングをまったくやらないチームが、体格もはるかに大きく才能・戦歴豊かな選手で構成された、ウェイトトレーニングを行っているチームすべての頂点に達したということは、ウェイトトレーニングの無効性の実証であると同時に、「ゆる」を根幹とした「ゆる体操」の有効性(ウェイトトレーニングおよび体格・才能に対する)の実証とみなさざるをえないのではないでしょうか。
しかもその中身を知ったら、その真意を理解される方は、間違いなく青ざめるか、深い感動の嘆息をつかれることでしょう。なぜならこのチームの選手は、ウェイトトレーニングで身を固めた大型選手を肉体接触プレイでも打ち負かし、どんな緊迫した試合でもほほ笑みを絶やさず、まなじりを決した相手チームを打ち倒していくのですから。
そしてさらに週に3時間×5日の計15時間の練習時間のうち7.5時間を「ゆる体操」にあて、バスケットポールにかける時間はわずかに7.5時間という「もしかして「ゆる体操』クラブ!?と冗談を言えてしまうほどの事実。
小さく細い身体でほほ笑みながら敵を斬る、伝説の剣聖塚原ト伝や小説の眠狂四郎の姿が、彼女たちの姿に重なりませんか。そして驚異的な学習力の向上。じつはバスケットポールはもっとも情報量の多いスポーツ種目と言われ、つまりはもっとも技術・戦術を習得するのに時間がかかる種目なのですが、それを週に7.5時間まで減らして大学日本一になれたということは、彼女たちの脳の集中力・創迫力を担当する前頭連合野、空間認識力を担う右脳、監督の言語指示を的確に理解し選手間の高度な情報の共有に関わる左脳、そして精妙な(接触プレイを含む)身体操作力を担う小脳、さらに練習中(も試合中も実生活でも)マイナス思考をもたず常に明るくプラス思考でいられる背景としてのA10神経系ホルモンのドーパミンの生産性など、ほぼ脳全域にわたるかなり高度な機能改善に成功している事実を示しているのではないでしょうか。
「ゆる体操」をやれば、人はほぼ全方向的に優秀になる。人格も学習力も感性も向上し、スポーツも武術もビジネスも、妊娠出産も病気治療も病気予防も家庭生活も、よりよい方向に改善される。ゆるめるということが、他の何よりもすぐれた成功の根本法則であり、「ゆる体操」がその最高の実現方法であることが、本書によって明らかになります。
世の中を身体から変革したいと信念し、この体操を考案しました。そしてこのアイディアを、自分自身の、愛する家族の、親しい友人の、そして日本社会の、現状と未来に危惧をいだく、多くのみなさんと共有したいと思い、本書を執筆しました。
ひたすら事実の列記につとめたのは、積み重ねられた事実を知っていただく以上に、重要なことはないと考えたからです。
私が身体意識の研究をはじめて、すでに40年が経ちます。従来の筋力や根性に重点を置いたトレーニング法に疑問を抱いたことが研究に拍車をかけたわけですが、今日重大なことがわかってきました。
身体意識は精神とカラダの間に存在する意識ですが、これが行動の根本力。カラダに点在しているので、つないでいくと、それが地図や設計図のように描けます。でも、ただ描ければいいわけではなく、クオリティの高さも求められるのです。
そこで大事なことは、カラダのゆるみ。各界で活躍するトップたちには、じつに巧みな『身体づかい』と『心の迫力』という共通点がありますが、すぐれた心身の裏には、必ずゆるみかあることに気づきました。
そして、『カラダをゆるめる』専門的方法とセットにして開発したのが、身体意識を鍛えるトレーニング法です。
04年に上梓した『図解トレーニング身体意識を鍛える』では、7つのアイテムを取り上げて内容を紹介しました。そして、それが大きな反響を呼びました。
でも、人間のカラダと心にはもっとたくさんの『身体意識』というアイテムが存在します。そこで、今回はさらにスケールアップして16アイテムに着目し、その働き、さらには具体的なトレーニング法を紹介していくことにしました。
トレーニング法は『軸』と「ハラ』を基本として、じつに多彩ですが、歯をくいしばるストイックなものはまったくありません。呼吸法や意識操作も駆使し、脳を隅から隅まで鍛え上げます。意識は自分自身の中へと入り込み、カラダを内側の深くから改善するため、圧倒的な健康効果も期待できます。
スポーツの世界に身を置く方なら自己ベストを、ビジネスマンなら最高の仕事力を体現できるでしょう。どなたでも無理なく、かつ飽きずに続けられる内容ばかりですから、ぜひ気軽に実践していただきたいと思います。
そしてカラダがゆるむ快適感、颯爽と動く喜びを、ひとりでも多くの方に実感していただけたら、能力科学者冥利に尽きます。
人は誰でも健康でいたい、きれいになりたい、高い能力が欲しい、強い精神力をもちたい、魅力的な人になりたい、生きている実感が欲しい、孤独をいやしたい、人間関係をよくしたい、センスをみがきたいetc.といったさまざまな欲求をもっています。
「ゆる呼吸法」はこうした希望を的確に、また効率的にかなえるために、目的別に20以上のメソッド・グループを用意し、おこたえします。
本番に強くなりたい人のためには「ゆる精神力呼吸法」、内臓を丈夫にしたい人のためには「ゆる内臓強化呼吸法」、人間関係を豊かにしたい人のためには「ゆる人間関係呼吸法」といった具合です。
本書でご紹介するのは、たくさんある「ゆる呼吸法」の中でも大変にユニークな、全身の六〇兆の細胞と友達になることを目的にした「ゆる細胞呼吸法」とネーミングされたメソッド・グループです。
いきなり「六〇兆の細胞と友達になる」といわれても、よくわからないと思っているあなた。心配はいりません。
メソッドは「えっ、こんなに簡単でいいの?」と首をかしげたくなるほど簡単で、そして、思わず叫び出したくなってしまうほど「気持ちいい」ものが多いのです。
しかも、効果が早くわかる。肌がスベスベ、顔が引きしまって知的美人・美男子顔になる、疲れが取れる、よく眠れるようになる、ストレスが減って気分がゆったりする、粘り強くなる、などの比較的わかりやすい効果が、メソッドをやるほどに次々に現れてきます。
実はこうした途中経過にあらわれる効果を楽しみながら、メソッドに取り組んでいる間に、潜在意識が無理なく開発され、全身の細胞たちとの交流が進み、やがて自分が細胞と結びついているという信頼感、細胞を生かし、細胞に生かされているという幸福感が育ってくるように工夫されているのです。
今や世界的に有名になりつつある「もったいない」という言葉は、自分をつくりあげている六〇兆の細胞の存在を忘れ、六〇兆の細胞の力を活かしきることを忘れた人のためにこそあるのです。
さあ、「ゆる呼吸法」で細胞と友達になってください。
そして、あなたの希望を実現してください。
これは「神秘体験」でも細胞呼吸法の「目的」でもないことをお断りしたうえで、私白身の幼少期の細胞体験と思われる話をします。
私は三歳くらいから比較的よく記憶が残っているのですが、三歳から七歳までのころ、しばしば全身が光り輝いている感覚におそわれる体験をしました。
その光り方には特徴があって、全身が一体として光るのではなく、小さなツブツブ状の光がギッシリと寄せ集まって、全身からあふれる光となって輝くのです。そのときの快適感、幸福感といったらたとえようもありません。
お手伝いか何かをしている最中でしたら、その動きは周りの大人たちでさえ目を疑うほどのものだったようです。
つまりこの状態には、高能力がともなっていたと考えられるのです。
このツブツブの光は、なんなのだろう。以来ずっと持ち続けてきた思いは大人になり、身体の研究者になっても、忘れられることはありませんでした。
そしてある日、劇的な論文に出会うことになります。そこには、多細胞生物の細胞が光をはなっている、という趣旨のことが書かれていました。
その発光現象は生物フォトンと呼ばれていること、その働きはよくわかっていないけれど、細胞の生命活動の現われであると回時に、細胞間の情報交換の可能性もある、という考えが述べられていました。
私が子どものころ出会ったツブツブの光が、本当に生物フォトンであるのかどうかは、証明のしようもありません。
しかし私は「おそらく」というただし書きつきで、次のように考えることにしています。
幼少期の私は、おそらく全身のすべての細胞と完璧な意志、意識の交流ができていたために、最高の細胞の活動力を引き出すことができたのでしょう。
その最高の活動力の現われとしてはなたれた光は、当然最強の光力をともなっていたはずです。
そしてまた私も、全細胞の最強の支援を受け、最高の身体感覚を発揮することができたために、その光を感知し、顕在意識にまで上らせることができたのではないでしょうか。
科学によって完全に解明されたことだけで生きようとしたら、人は一秒すらも生きることはできません。それほど科学的に解明されたことは、少ないのです。
細胞との交流が解明されていない現在でも、細胞と交流することはできると私は考えています。
その思いを本書で感じていただけたら大変幸せです。
トリノ冬季オリンピック女子フィギュアスケートで金メダルに輝いた荒川静香選手。彼女の代名詞となった「イナバウアー」は、まさに肋骨と開運の関係を示す好例です。イナバウアーはもともと足を前後に広げ、つま先を180度に開いて滑る足技でしたが、荒川選手は高校時代「背中を反らせたほうがきれいじゃないかな」と思いつき、練習を重ね、頭が下になる状態まで上体を曲げるオリジナル技に発展させました。
けれども2005年、圧倒的な美しさとしなやかさで観客を魅了するイナバウアーを彼女は「封印」します。この技は新採点基準では技術点を稼げないためでした。ところが封印後の荒川選手は、焦りのためか演技がギクシャクし、得点も伸び悩みました。「引退を考えた」というコメントからも、当時の苦しい状況が垣間見られます。
しかしやっとの思いで五輪代表の座を勝ち取った後、彼女は大きな決断をします。「観客のみなさんに『もう一度見たい』と思わせる演技をしたい」と初心に帰り、フリープログラムの曲を愛着のある『トゥーランドット』に戻し、再びイナバウアーを取り入れたのです。
頭が腰につきそうなほど背中を反らす荒川選手のイナバウアーは、背骨はもちろん、肋骨が柔らかくゆるんでいないとできません。肋骨(ハート)を開く究極のポーズです。このポーズが金メダルの原動力になったと、私は思います。胸を大きく開くことで選手本人は緊張から解放され、自信や情熱がわいてきます。同時に、観客の感動や声援もものすごい勢いを伴って胸に響いてきます。
ライバルのスルツカヤ選手やコーエン選手がジャンプでミスを連発したのとは対照的に、荒川選手はイナバウアーに続く3・2・2回転の3連続ジャンプも見事に成功。イナバウアーを披露したとき、彼女はプレッシャーをはねのけ、自分のハートを開ききることができました。その結果、自分の人生の中心に立つと同時に、文字どおり世界の頂点に立ったのです。
ちなみに、彼女が金メダルの舞台で使ったオペラ『トゥーランドット』は、氷の心をもつ姫君が王子の真の愛にふれて心を開き、愛に目覚めるという物語。これこそまさに、肋骨開放の物語にほかなりません。金メダルは、最高の「肋骨開運」舞台でもたらされました。
女性には女性特有の悩みが数多くあります。「つらさから解放され、健康になりたい。」という願いに加え、女性ならだれもが「美しくありたい」という願いを持っていることでしょう。
その一方で、どんなに表面を取り繕っても、内面からの美しさにはかなわないという事実もまた、多くの女性が気づき始めていることです。美しさと健康の両立という壁を前に立ちすくみ、悩みはさらに深くなります。
さらに現代女性は、男性と同じようにキャリアを積み、自分のポジションを築くための努力を重ねる方が多くいらっしゃいます。そして一方で、「女性としてどのような人生を歩めばよいのか」という命題を抱え、男性とは違った部分で悩みます。
心の悩みは体にも影響し、健康を妨げるとともに、女性本来の美しさを埋もれさせてしまいます。その悪循環に入ったが最後、深みにはまっていきます。現代女性の置かれている状況は、想像以上に深刻です。
でも実は「美しくあること」、「健康であること」、「高能力であること」の3つは、根本ではつながっているのです。その事実に気づいたとき、私たちはそれらの悩みを簡単に解決できる方法を見つけました。それが、ゆる体操の基本中の基本「寝ゆる黄金の3点セット」です。夜寝る前のちょっとした時間に行うだけで、3つの悩みがことごとく氷解しはじめます。続けるだけでキレイに変化することが感じられ、体の調子、心の調子がよくなり、人生までもが変わってきます。
幸いにして、多くの女性がこのゆる体操に取り組んでくださり、私たちが直接関わった方だけでも、3年間で1000人以上もの女性の人生が変化しています。どんなことをしても悪循環から脱出できなかった方が、寝ゆる体操を行うだけでレールがそっくり替えられたかのごとく、はっきりと変化していったのだといいます。よい循環に乗れたら、あとは自分に合ったゆる体操を楽しみながらチョイスして、生活のペースに合わせ、気軽に行っていけばよいのです。
あなたもゆる体操を通じ、よい循環の中で、どこまでも変化する自分を知るでしょう。本書があなたの人生を変えるきっかけになれば、これ以上の喜びはありません。
みなさん、ゆる体操を実際に体験してみていかがでしたか?思った以上に簡単で、驚かれた方も多いのではないでしょうか。怠け者ここに極まれり、といった体操でありながら、体を動かすうちに「ああ気持ちいい」と心から感じられる時間を過ごせたのではないかと思います。
名前の通りユニークな体操であるだけに、ゆる体操を実践なさっている女性からは、実にたくさんのおもしろい話を聞きます。
「ゆる体操を行っていたら、食べ物がおいしく感じられるようになった」というのはその代表的なもの。なかには「今までおいしい店に連れていってもらっても、『味はふつうなのに、なぜこんなに評判がいいの?』と思っていたけれど、ゆる体操をはじめてからは、なぜ評判なのかがわかるようになった」という方もいらっしゃいました。ゆる体操をすることで、体内の感覚や心の感性が研ぎ澄まされてきたのでしょう。
ゆる体操を実践されている女性は一様に、「こんなに簡単で、気持ちよくて、体の芯からのんびりできる体操をしただけなのに、なぜこんなに体が変わるのか不思議でしょうがない」とおっしゃいます。しかしそうではありません。その感覚は人間が本来持っているメカニズムであり、ゆる体操を行うことで元に戻っているにすぎません。
肩に力を入れ、がんばろうと一生懸命になるばかりでは、本来のあなたが持っている感覚やセンスは鈍くなり、インスピレーションだって枯渇してくるでしょう。そこで脳をリラックスさせ、快感ホルモンが出るような状態にすれば、自然と感覚が鋭くなり、センスもよくなり、インスピレーションだって泉のごとく湧き出てきます。健康によいのは言うまでもなく、ストレス軽減や仕事の能力を伸ばすのにも効果があります。
第一、いつも楽しそうにイキイキとしている女性は。まわりから見ても素敵で、好感度が高いのです。本人にとっても、今まで過ごしてきた世界が色鮮やかに変わったことが、楽しくてたまらないに違いありません。
ゆる体操には、とても優れた人間関係改善効果と幸せ効果があるのです。
みなさんも、ゆる体操を通して新しい体験や楽しい時間をたくさん手に入れてください。ゆる体操の考案者、指導者として、それだけを願ってやみません。
私は2004年に、『高岡英夫の歩き革命』(学習研究社刊)を舞台に、人の理想の歩きとして、「ゆるウォーク」を提示した。
ゆるウォークとは、体をゆるめて、コリやムダな力を取り除き、もって生まれた自然の力を取り戻し、快適に歩くことである。つまり、この本は、観念的に正しいとされる歩き方に人の体をはめ込むという、これまでなされてきたすべての歩き方の理論と指導に、警鐘を鳴らす本でもあった。
そして「この本は、とても奥の深い内容を、懇切丁寧に、わかりやすく説いている。これこそ、快適な歩きをものにするためのバイブルだ」との声を、数多くいただいた。
しかし、ゆるウォークを、どこまでも正確に理解していただきたいという思いが強すぎたのか、その内容は少々ヘビーなものになってしまった。そこで、このヘビーな本を手にした多く方々から、今度は、もっと気軽に取り組めるやさしい本を出版してほしいというご希望をいただき、本書は生まれた。
私は一方、そのヘビーな本を書き進めるずっと以前から、運動嫌いでも、高齢者でも、努力が嫌いな人でも、忙しい人でも、体をゆるめ快適な身心が得られる体操を、精力的に開発していた。それが今日、テレビや雑誌などで取り上げられ、好評をいただいている「ゆる体操」である。
そこで本書では、まず、そのゆる体操の中からゆるウォークに役立つものを厳選し、歩きをよくする理由とともに紹介した。そしてさらに、体をゆるめることで自然に目覚めてくる「快適に歩くためのメカニズム」を強化するやさしい方法も、その理由とともに紹介している。
つまり、本書は、運動嫌いでも、高齢者でも、努力が嫌いな人でも、忙しい人でも、さらにはこれまでのウォーキングメソッドで癖のついた人でも、無理なく快適に歩けるようにするための手引書である。もし、この本でゆるウォークの快適さ、自分の体のおもしろさに気づいたら、本書の原本にあたる『高岡英央の歩き革命』も、ずっとわかりやすくなるだろう。
体をゆるめて、コリやムダな力を取れば、それだけで快適に歩ける自然の力が人間には備わっている。その力を引き出す鍵は"気持ちよさ"。気持ちよさとともに、本書とつき合っていただきたい。そうすれば、見た目にも颯爽(さっそう)とカッコよく、自分自身はその気持ちよさに、いつまでも歩いていたくなる、あるいは、ちょっと歩いただけで身も心も快適になる歩きが誰でもできるのだ。
人は1日おおよそ3000歩から1万歩、歩いている。そして、歩きはすべての運動の基本。歩きが改善されれば、人のあらゆる運動がより快適なものになる。したがって、その一歩、一歩がより快適なものになれば、人生はよりすばらしいものになるはずなのだ。
本書を、人生をより楽しく豊かにしたいと望む、すべての人に捧げたい。
地球上に生きる私たちの体に、絶えずかかっている一番大きな力、それは重力である。しかし、私たちはその存在をまったく忘れて暮らしている。というより、片時もその力がなくなる瞬間がないから、逆にその存在に気づきにくいのだ。もし、それに気づくチャンスを1日でも与えられれば、重力を上手にコントロールすること、つまり、できるかぎり力を使わずに重力に抵抗することが、生きていくうえでもっとも重要な術となり、誰もがその術を磨くトレーニングの必要性に気づくのではないだろうか。
しかし、残念ながら、地球上にいるからこそ、そのチャンスは与えられない。その術を磨く必要性に気づく人はほとんどいないのだ。そのために、ほとんどの人が全身を必要以上に力(りき)ませて、重力に抵抗している。
その結果、体のバランスを崩し、下手な歩き方で年月を重ね、腰痛、肩こり、ひざの痛みをはじめ、有形無形の多くのストレスに負担を強いられながら生きているのだ。この不幸を、根本から解決するには、どうすればいいのか?
その解決策をやさしく、温かく説いたものが、本書である。歩くことは誰にとっても基本中の基本、つまり最も重要な運動である。歩きを通して、解決策を自分のものにしていただくことが、本書の真のねらいなのだ。
その根本問題を解決する鍵は、ざっくり言ってしまえば、二つ。ひとつはゆるむことで、もうひとつがセンターを通すことだ。ゆるむための体操は、どれも、汲めども尽きぬ奥の深さがあり、豊かさがある。ひとつの体操でそれを味わえると、他の体操の効果もおのずと上がる。そして、それらの体操でゆるめばゆるむほど、センターが通りやすくなり、センターが通れば通るほど、また、ゆるみやすくなるのだ。
つまり、本書で紹介した体操は、どれもが互いに助け合う関係にあるというわけだ。その広がりと深まりを楽しみながら取り組んでいただければ、歩きはもちろんのこと、すべての運動が快適になるのだ。
当然のことながら、ここで紹介した体操を、毎日全部やっていくのは、無理難題だ。だから、自分がやったらよいと思う体操を10種類選び、それらを、毎日の生活の中で、気軽に行っていけばよい。
もちろん、その10種類の中に、レッスン1で紹介した「寝ゆる黄金の3点セット」は、必ず入れること。そして、残りの7種類を頻繁に変えていこう。季節や生活の状況変化に合わせて、その時々にやれる、あるいはやりたい体操に変えていくのだ。
そうすれば、飽きずに楽しく歩きが改善でき、ひいては上手に重力とつき合えるようになる。自分の体と飽きずにつき合えれば、人生も飽きずに楽しく豊かに生きていける。
どうか、世界でたったひとつのあなたの体を大切に。
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