肩甲骨が鳥の羽のように羽ばたく感じってわかる?!
「快適肩甲骨開発法 初級」 (高岡英夫・談)
肩甲骨は上半身の“要の骨”
高岡先生(以下、高)――からだ君は上半身に辛かったり、なんとかしたいという症状はあるかい?
からだ君(以下、か)――僕は仕事でパソコンを使うことが多いのですが、ディスプレイをずっと見っぱなしで、キーボードをつい夢中になって叩いていると、肩とか首、前腕が凝ってしまって、眼も疲れてきます。能率もはなはだ低下しますし、これはなんとかしたいですね。
高――これはね、肩甲骨というのは上半身の要の骨だからなんですよ。肩甲骨の構造を見てもらうとわかるのですが、もともと四足動物のときに肩甲骨は極めて強力な駆動力を持っていました。上肢つまり人間でいうと腕にあたるわけですが、それを強力な移動運動器官として使わせる要だったのです。
それで一方、四足動物って私たちがびっくりするほど、フットワークがいいですよね。方向転換もすごいじゃないですか。あの素晴しい運動を可能にしているのが、じつは肩甲骨なんですよ。この骨が要になっているのです。
とくにネコ科の動物になってきますと、人間が驚くような腕づかいができるわけです。虎なんかは、鹿や牛、ときには水牛を獲物として捕まえるのですが、倒すときには首にグサッと左腕の親指の爪から手の爪を打ち込んで首を押さえつけると同時に、右腕もやはり同様にガツンと鼻に打ち込むのです。まるでタガネを打ち込むように両腕を90度の角度で相手の体に打ち込むのです。そのときは、腕を直角に回内している状態で両腕を打ち込むのですが、次の瞬間にはバッと180度以上に回外して開くのです。それだけで獲物の太い首が折れてしまうのです。
か??そうなのですか、それほどの腕づかいとは驚きました。
高――彼らの非常に強力で知恵のある巧みな腕使いの要になっているのが、肩甲骨なのです。だから虎の肩甲骨まわりの筋肉が凝っていたら、その運動ができないわけです。結局、ヒト化していったときに人が上半身をどれだけ自由自在に、かつ快適、強力に使えるかということの要になっているのは、肩甲骨なのです。
肩甲部をフワフワにゆるめることが大事
高――普通パソコン等でキーボードを使っているときって、指先は動いていても体幹部に近づけば近づくほど腕が動かずに、肩甲骨あたりなんかはほとんど動いていませんよね。あれが肩甲骨を拘束してしまう原因になってしまっているのです。それを克服するためには、肩甲骨が常時動くような状態を自分の中で形成することが必要なのです。
か――それでは、常に肩甲骨を動かしながら、キーボードを叩けばいいのですか?
高――そういうことではありません。肩甲骨の自由度を本質的に高めてやるのです。肩甲骨まわり、とくに肩甲骨と肋骨の間の筋肉が非常に重要になってくるのですが、そこの筋肉の代謝状態が常に高まるように維持することが大事なのです。
か――具体的にはどのような状態なのですか?
高??それは非常に筋肉がフワフワに柔らかい状態です。肩甲骨と肋骨の距離が長い、つまり肩甲骨と肋骨の隙間が大きいということです。筋肉がフワフワということは、一つの筋肉がより容積が大きいということを意味しています。
か――容積が大きい?
高――そこの血液、体液の循環が良くて、代謝状態が高いということです。それがフワフワという状態。フワフワの筋肉にするにはどうしたらいいかというと、難しい言葉で言うと「組織分化」、やさしい言葉で言うと「ゆるめること」なんですね。
か――つまり体幹部、とくに肩甲部をゆるめることが大事なのですね。
高――その通り。私はあまりキーボードを叩かないんですけれども、その代わり携帯のメールはものすごく使うんですよ。携帯メール一つで、仕事も何でもやってしまうのです。携帯のメールってキーボードに比べはるかに面倒くさいでしょ。僕は左手の親指で打つことも、右手の親指で打つことも、左右自由自在に使って打つこともします。左手で携帯を持って、右手のどの指を使っても打つし、逆に右手で持って、左手のどの指を使っても打ちます。
肩甲骨周辺が固まれば、全身にブレーキ成分が広がってしまう
か――それは肩甲骨をゆるめることと何か関係があるのですか?
高――もちろんです。なぜかといえば、手指の使い方をゆるめた分だけ肩甲骨の自由度すなわち組織分化が進むからです。普通の人は私がそんなことをしたら「何でそんないろんな手を使ってやれるの?」と疑問に感じるだろうし、それと同時に「そんないろんな手を使ってやったら、ストレス受けちゃうよ」と思うでしょう。
か――はい。普通だったら、相当なストレスになりますよね。
高――ストレスになってしまうよね。よくある話で、右利きの人があえて左手に箸を持って一所懸命食べる練習をする、というのがありますよね。でも、これは極めて単純な運動レベルの話なんです。携帯を全部の指でどこでも打つ方が、はるかに高度なのですよ。多様の手の使い方をすると、なぜストレスを受けるかといえば、肩甲骨のポジションに自由度がなく固まっているからなのです。
左手の親指で打つのと、右手で携帯を持って左の人差し指で打つのとでは、肩甲骨のポジションが全然違う。中指で打つのとも全然違うし、薬指や小指とも全然違う。肩甲骨の位置がそれぞれみんな違うのです。
だから肩甲骨まわりが固まっていると、自由にそのポジション通りに動かせない。だから、皆さんうまくできないし、それ以前にストレスを受けるのです。キーボードについて言うと、キーボードは全ての指を使うわけですよね。ということは、恐ろしいことに全ての指を使うためには、どの指を使っても適切なポジションに肩甲骨を持ってこなくてはならないのです。
か――そうなんですか! それは知りませんでした。
高――でもそのような運動を行おうとしても、潜在意識下でパニックを起こしてしまい、対応できるわけないじゃないか、ということで肩甲骨を固めてしまうのです。
か――そうすると、体が固まってきちゃうわけですね。
高――そうなのですよ。その肩甲骨が固まった状態でもって、無理矢理指の位置だけ何とか変えようとする。
か――そうなると、肩甲骨だけでなく肋骨や首なども固まってしまう…。
高――そうです。体幹部の奥に拘束が入っていくだけでなく、前腕から手首、手、指まで拘束が進みます。そうなるとかえって、たくさんの指を使うことでブレーキ成分を強めてしまい、肩甲骨だけでなく、全身にブレーキ状態を広げていってしまうことにつながります。
それは身体運動についてもいえるのですが、今度は無意識、潜在意識を通って本人の心を攻撃することになる。ストレスを受けて、心身が非常に非効率になるのですよ。だから肩甲骨周辺をゆるめるということは、上半身の身体づかいのみならず、精神的な健康までをもひっくるめた、まさに心身の要になる重要な問題なんですよ。
身体のあり方を変えれば、必ず精神のあり方も同時に変わっていく
か――当然、携帯メールやキーボードを打つことだけではなく、スポーツや武術、踊り、家事など、あらゆる身体運動にも通じることですよね。
高――もちろんです。身体の開発で非常に大事なことは、身体のあり方を本質的に優れたものに変えれば、その効果は身体のみならず、必ず精神のあり方も同時に変えていくというところです。だから、このような身体開発法(『快適肩甲骨開発法』)から得られるものは、皆さんの大きな財産になりますし、一方、私たちのような専門家はどんどんこういう手法を広めていかなくてはいけないと考えます。
筋力トレーニングは、もちろん役に立つ場面、シチュエーションもありますが、ホーリスティックな科学的な立場からいえば極めて限定的なものです。極めて限られた条件設定の中で上手くいった場合に、役立つというのはとても当たり前のことなのです。だけど、そこには普遍的な価値はありません。なぜなら、心身の極めて総合的なメカニズムを背景にした効果になっていないからです。
このような言い方はたいへん失礼になってしまうかもしれませんが、筋トレを開発してきた指導者や研究者たちは、極めて単純なモデルで、どの筋肉を、どのようなフォームで、重量物を利用してどのように負荷をかけて、どのような方向に抵抗させたら、効率良く筋肥大を起こして筋肉を強くしていけるか、ということ以外には何も考えていないのです。
人間の心身というものから他の膨大な身体の機能と心を完全に切り捨てて、体の極めつけの一部だけを取り上げた極めて単純な道具、それもクランクがいくつか繋がったような簡単な機械・道具モデルとして考えているだけなのです。
それが、根本的な問題なのです。最近、少しずつこういう時代に入って、従来の筋トレの指導者や研究者とは明らかに違うタイプの研究者・指導者も生まれ始めているんですね。そういうことを生み出す基本的な影響を、私などの仕事もこの業界で果たしているのだと考えます。
肩甲骨が鳥の羽のように羽ばたく感覚
か――「鳥の羽のように羽ばたく感じってわかる?!」と本講座のキャッチコピーにありますが、主観的にはどんな感じなのでしょうか?
高――まず肋骨と肩甲骨が全く別なものだ、という実感はないですよね、皆さん?
か――ないですね。
高――通常は手の親指の骨のようにハッキリと別の骨と区別できて、これが肩甲骨だという実感は持ててないですよね。次に肩甲骨と肋骨が別のものだという実感もないですよね。
か――そうですね、ないですね。
高――さらに、肩甲骨と肩甲骨の間に隙間があるという実感もないですよね。
か――いやぁ、考えたこともありません。
高――ましてや肩甲骨と肋骨の間に、風が吹くという実感はないでしょう?
か――それは想像を超えていますね(笑)。
高――この講座では、ぜひ私も超ゆるゆるに気合を入れまくって、みなさんを指導させていただき、全員に肩甲骨と肋骨の間に風が吹く感覚を味わっていただきたいと考えています。
か――それは素晴らしいですね!!
高――その状態で初めて、肩甲骨と肋骨の間に風が吹く、つまり肩甲骨が鳥の羽のように羽ばたく感じになるということに繋がってくるのです。
か――なるほど。ぜひ味わってみたいですね。
高――ちなみに私は何をしているときも肩甲骨は鳥のように飛んでいます(笑)。いつも風が吹いているのですよ。
か――私もぜひそうなりたいです。
高――ぜひそうなっていただけるように、張り切らせてもらいます。その上で講座の後半では、理想的な肩甲骨のポジションをどのように取ったら良いかのトレーニングを指導させていただこうと考えています。今の日本人の肩甲骨の位置つまりは肩関節や胸隔の位置がまるでメチャクチャですからね。
(高岡英夫・談)
(了)
2010年5月4日(祝)9:30~14:00 東京開催「快適肩甲骨開発法 初級」
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